東京高等裁判所 昭和46年(う)119号 判決
被告人 荒原和夫
〔抄 録〕
所論の要旨は、被告人車は本件交差点内に入りセンターライン寄りに一時停車し、対向直進して来る被害単車を四〇メートル前方に発見したが、同単車が交差点内に達する以前に自車が通過し得るものと判断して右折を開始し、時速約一〇キロメートルで約二メートル対向車線内へ進入した際、被害車の急制動の音を聞き、同車が前方約二〇メートルの地点に来ていることを認め衝突を避けるため、その場に再び一時停車したところ、進行して来た被害車の後部が被告人車の右前部に衝突したものであつて、被告人に過失はないのに、原判決が事故の結果につき被告人の過失責任を認めたことは、法令の解釈適用を誤り、事実を誤認したものであると主張する。
しかし、記録を精査すれば、原判決の挙示する証拠により原判示の過失内容を含め事実関係を認めることができる。交差点において右折しようとする車両の運転者は自車の進行して来た道路の対向直進車、左折車、交差道路の直進車、右折車等の状況に十分注意し、安全を確認したうえ右折進行すべきことは当然の義務である。本件においては原判決が説示し、所論も肯定する如く、被告人が右折を開始するに当り前方約四〇メートルに対向直進して来る被害車を認めているのであるから、被告人の過失の有無は本件の具体的状況下において被害車の前面を安全に右折進行し得ることを確認したと認め得るか否かにかかる。被害車の時速はその残したスリツプ痕よりして約六〇キロメートルと推算されること、本件交差点付近の旧目白通りは目白方面に向け下り勾配であること、被告人運転のバスは車長一〇・〇六メートル、車幅二・四五メートル、車高三・〇六メートルの車体を有する大型車であること、被告人車の走行して来た旧目白通りの車道幅員九メートル、右折進入しようとする江古田駅に通ずる道路幅員六メートルであること、右両道路は直角に交差するものではなく、旧目白通りの北側において目白方面に向け稍鋭角であること等の具体的状況を考慮に置けば、被害車は二、三秒で交差点内に達することが推測される一方、長大な被告人のバスが右折のため方向を転換して交差点を通過するには普通車に比し遙かに慎重な操作と長い時間を要し、被害車の前面を安全に右折進行し得るとの判断は困難である。被告人が右折に当り十分安全を確認したとはいい難く、その過失を否定することはできない。被害者側にも前方注視、速度の調整等において過失のあつたことを窺い得るが、そのことにより被告人の過失に消長を来すものではない。原判決が道路交通法三六条二項を引用して説示する部分は所論の指摘するように適切ではないが、被告人の過失の有無の判断に誤認はない。
所論は、本件の衝突以前に被告人車は既に右折していたのであるから、被害車こそ被告人車の交差点通過を妨げてはならない義務があり、衝突につき被告人に過失はないというが、道路交通法三七条は交差点における右折車と対向直進車、左折車との関係につき、先ず直進車、左折車が優先通行すべきことを定め、直進車、左折車の進行を妨げることなく既に右折した車両はその後に交差点に接近した直進車、左折車に優先することを定めているのである。被告人が安全確認を欠いたまま右折を開始した点に過失を認め得ること前示のとおりであり、衝突時に既に右折していたと主張し得る筋合ではない。右法案は早いもの勝ちを定めた規定ではない。
(関谷 寺内 中島)